読書感想文

 

 

ネット番組を見て読まねばと思ったのがこちらの作品でした。

「凍土の共和国」

朝鮮戦争後分断された半島で北朝鮮への帰国運動が日本で盛り上がった時期があり、在日朝鮮人の人達が希望に胸を膨らませて大勢共和国へ向かいました。

それというのも本国からはもちろん朝日新聞をはじめとする日本のメディアが「北朝鮮こそこの世の楽園}「衣食住すべてが満たされた発展著しい夢の共和国」などとぶち上げたこともあり、祖国建設に協力するとともに自分の夢も叶えたいと願う若者を中心に熱に浮かされたようなムーブメントとなったからです。

 

この本はそれから二十年後に、帰国した家族を訪ねた著者の旅日記です。

兄、姉、従妹たちが先んじて帰国した後著者も後を追う希望を持ちつつ日を過ごす中送られてくる手紙の内容に不自然さを感じるようになり、特に送付を希望する品々が生活必需品であることから本当に満たされた生活をしているのか疑問を持つのです。

 

時の流れとともに明らかになってきたのは喧伝されていたこととは正反対の事実で、日々の食糧にも窮する有様とそれを決して明らかにできない恐怖の閉鎖社会だったのです。

帰国同胞を訪ねるツアー?に参加した著者は到着早々からぶ厚い壁土に塗り固められた表面だけを手探りするかのような思いに苛まれます。

 

港には出迎えの家族たちがあふれていると思いきや人影すらまばらな閑散とした風景。

まるで景色を見せないためのような夜汽車で平壌まで移動する途中停車した駅では、自分たちの豪華列車とは比べ物にならないおんぼろな汽車を待つ死んだような眼をして貧民のように痩せ細った人々の一群を目にします。

 

いつ家族に会えるのかもしれず出国時から決められた班割に従って北朝鮮側監視員の目が光る中、社会主義洗脳教育といってもいいような団体行動による見学ツアーの繰り返しは一切の例外的行動も許されません。

何につけても「偉大なる首領様と親愛なる同士」である金日成、金正恩親子への熱烈なる賛美の繰り返しに始まり、その象徴としての無意味に巨大な建造物や底の浅い芸術もどきの展示物をこれでもかと見せられまして。

合間の移動は党の序列に従ったレベル順の高級外車でそれと見た交通整理の人間は他に優先して通し、見送る貧しげな子供たちはいつでも最敬礼。

生産性の高さと成果を歌う反対に窓から見える国産車は、我が物顔で疾駆するベンツ、日本車、ソ連製トラックを傍目に故障して動けないものばかりで、挙句にトウモロコシの皮を燃料にしたものまで見てしまいます。

 

延々一カ月もそんな生活を強いられた後ようやく家族の住むアパートに連れて行かれますがそこへも監視役の党職員が何人も同行し、その時だけの特別配給の豪華な食事を我が物顔で飲み食いし、腕時計や日本円など賄賂を手渡してようやく帰し深夜に家族水入らずになれました。

 

そこで日本を出た時の輝く瞳をした若き日とは別人のように痩せ、老け込み、疲れ果てた姉や従妹から(兄はろくな治療もされないまま結核で既に故人)教えられた恐るべきあの国の実情。

誰も信じていないことを信じているごとくふるまわねば、すなわち世界革命の偉大なる指導者一族を奉じる主体(チュチェ)思想の忠実な信奉者のふりをせねば生きることすらままならず、ひと月分には到底足りない配給食糧が尽きた後は山野をさまよって草木から虫まで口にせざるを得ない生活を「自力更生」の言葉で覆い隠す。

 

職場では上から一方的に下りてくる「速度戦」などのノルマをこなそうにも物資が圧倒的に不足しており、それでも数字は絶対でありしかも建設的な意見などサボタージュの横行する中では許されないためただでさえ乏しい各家庭からの供出で埋めるという。

 

独裁者一族と党幹部に近い一塊の人間のみが搾り上げた富で豪奢な暮らしを満喫する一方人民は上にへつらってうまく立ち回り地位を上げる以外は飢えと寒さと栄養不足、密告の恐怖や弱者間の同士討ちのような差別に苦しみ、特に帰国者は日本から訪ねてくる家族を迎える時の他は旅行はおろか移動の自由もなく狭い地域で息の詰まるような日々を死ぬまで続けるのです、おおおおおお  

 

三日間の滞在の後党職員が家族の口から言わせたのは帰国後共和国に送るべき多大な貢物で、そもそもこの家族訪問そのものが外資を得るための人質を取った恐喝であったのです。

それでも残して行く家族の待遇が上がることとその逆を思えば無下にもできず、自分の分限

より高めに周到に計算された貢物を約して再び日本へと帰っていくのでありました。

 

 

 

貧富の差のない働く者の幸福な社会という共産主義の理想自体はもちろん悪いことではありませんが、暴力革命の末実践した国が例外なく恐怖政治と虐殺の末現北朝鮮と中国を除き(今のところは)崩壊してしまうのは善悪合わせて感情を持った生身の人間の集まりである社会を唯物論で統治しようとする時に来る無理が個々の自主自由ではなく上層部からの統制による締め付け以外では一見解決できないからで、血の通わぬ無理無体な命令系統は更に無理を重ねた挙句組織そのものが耐えられなくなるからではないのかとあたくし思うんであります。

 

しかしそのようにして一旦成り立ったシステムは各階層が己の地位を失うこと即死につながる恐怖から下のものを簒奪して痛めつけ得たものは順繰りに上に送るがゆえに、上部は肥大化する一方下部は失う一方という一定期間であれば管理体制としては非常に強固なものになるのでありましょう。

 

そんなことは何も知らず夢だけを見て祖国に戻った人々の悲劇と、それ以上に無理やり拉致された数多くの日本人同胞が置かれているであろう想像を絶する状況を思い合せ読後慄然とするあたくしなんでありました。

なのにですよ

 

先日「ガイアの夜明け」というテレビ番組でまさに帰国家族を訪ねるルポを放送してましたが、あの国が外向きに見せたい内容そのままに楽しげで豊かな暮らしぶりを伝えておりました。

何なんでしょう?

評判いい番組らしいけどとんでもない!

 

どこからお金もらってんだか力が働いてんだか知らないけど・・・ 

 

とにかく何が何でも、拉致被害者全員奪還を!!